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よく知られていることだが、タンパク質を構成するアミノ酸鎖の一次配列進化速度は一様ではない。すなわちそのタンパク質の持つ機能に関して重要な部分とそうでない部分においては進化速度に差が存在する。ヘモグロビンのヘム結合部位周辺と表面部位におけるアミノ酸置換率kaaは10倍程度の差があることが知られている*1。これは言うまでもなく、ヘモグロビンの機能においてヘム結合部位周辺のアミノ酸残基が重要な役割を果たしているためである。

Sangerによって最初にアミノ酸配列が明らかにされたプロインシュリンが3つのペプチド鎖からなる構造を持っていることはよく知られている。この中のインシュリンに変換される過程で切り捨てられるC-peptideは、かつては機能を持たないと考えられ中立進化の一例としてしばしば上げられてきた。例えば「生物進化を考える(木村資生著、岩波新書)」においてこのように記載されている。
「インシュリンについては進化におけるアミノ酸置換率は1年あたり0.4x10^-9と遅いことがわかっているが、切り離し捨てられる部分Cにおけるアミノ酸置換率はインシュリンの率の数倍になる」(p210)

ところが生理的役割を持たないと考えられていたC-peptideは、1997年のScience*2で生理活性を持つことが示唆されて以来その生理活性に関する研究がなされており、性質が明らかにされつつある。その生理作用は血管内皮細胞からのNO放出の促進に関与するらしい。

C-peptideの進化速度について調べてみたところ、残念ながら原著は見つけることができなかったが、下記サイト*3において記載を見いだした。これによるとインシュリンのアミノ酸置換率kaaは0.4x10^-9/yearであるに対してC-peptideのそれは2.4x10^-9/yearと6倍の速度を示すらしい。これらのプロインシュリン分子内のペプチドにおける進化速度の違いは何に起因するのだろうか?

C-peptideと同様のペプチドとして、フィブリノーゲンに由来するフィブリノペプチドがある。このペプチドのkaaは9x10^-9/year程度である。私が調べた範囲では、このペプチドには生理活性の存在は認められていない。この値に比べると小さい2.4x10^-9/yearという値はおそらくC-peptideの機能的重要性や高次構造の重要性に起因しているのだろう。
また、0.4x10^-9/year よりも大きな値は、C-peptideの生理作用がレセプター経由ではないために多少の立体構造の違いは無視できるためであるのかもしれない。あるいはC-peptide持つ生理作用の重要性はインシュリン本体よりも低いのかもしれない。
今後のC-peptideの生理作用に関する研究成果が待たれる。


1:Kimura M and Ohta. Mutation and evolution at the molecular level. Genetics.1973;73(Supplement):19-35.
2:糖尿病マウスにおいて、ヒトC-peptide投与により血管および神経機能障害が抑制あるいは低減され、また組織におけるNa+- and K+-dependent adenosine triphosphate activity活性が減少させられることが示されている。この作用はレセプター経由ではないらしい。(Ido Y. et al. Science 1997;277:531-2.)
3:http://www.primate.or.jp/PF/yasuda/40.html
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