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最近のマイクロアレイ法は、アレイ作成および検出などの技術面およびデータ解析手法の向上、また価格面の低下により、遺伝子発現解析方法として身近なものとなってきている。
分子進化の研究においてもアレイを用いた研究がしばしば見られるようになってきた。
2006年にGiladらがNatureに報告したletterもマイクロアレイ法を用いた研究である*1。
この研究ではHuman、Chimpazee、Orangutan、およびRhesus macaqueを選択し、1056個のorthologousな遺伝子をプローブとして1つのアレイ上に配列している。
これまでのヒトの配列に基づいてデザインされたアレイでは、ミスマッチが生じるためにintensityから発現量を見積もるときにバイアスがかかってしまうが、このバイアスが除かれることになる。また、各種ごとにアレイを作成して比較するよりも、アレイ間に生じる誤差が排除されるために、誤差の少ない結果が得られる。このアレイを用いて、各種それぞれ雄5個体の肝臓における発現プロファイルを比較検討している。

論文中のTable1を見ると、発現が異なる遺伝子の数は、それぞれの種間でおよそ110から180の範囲である。例えばヒトとチンパンジーでは110であった。
ヒトと他の3種間で発現パターンが異なったものは19遺伝子で、そのうちヒトにおいてのみ発現量が高いものは14であった。この14遺伝子の中には5つの転写因子が含まれている。アレイ中には10%の転写因子が存在しているので、この割合は42%(5/12)と有意に高い(p=0.003)。他の種、例えばチンパンジーにおいてのみ発現量が高い遺伝子にはこのような傾向は見いだせなかった。また、この転写因子遺伝子の発現レベルの急速な進化に加えて、塩基配列の急速な進化も見られることが文献的に示されている。ヒトの進化において転写因子は重要な役割を持つのだろう。

ここで私が疑問に思うのはなぜ著者らが肝臓をサンプルとして用いたのか、ということである。
よく知られているように肝臓にはinducibleなタンパク質が多く発現している。これらの発現には転写因子も関与しており、ヒトの食生活など、他の種とは大きく異なる後天的な要因に起因する発現変化もあるのではないかと思う。むろんこのような変化は遺伝しない。こう考えると、違う組織をサンプルとして用いたほうがよいのではないかと思うが、なにか理由があるのだろう。

以前に「ヌクレオチド置換型突然変異の頻度」で紹介したダーウィンフィンチの進化に関する研究もマイクロアレイを用いたものである。今後はこういった研究が増えていくのではないだろうか。

1: Gilad Y, Oshlack A, Smyth GK, Speed TP, White KP. Expression profiling in primates reveals a rapid evolution of human transcription factors. Nature. 2006;440:242-5.
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