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大豆に含まれるイソフラボンが健康によいといわれている。このイソフラボンはフラボノイドの一種であり、フラボノイドは植物に広く存在している。例えば、色素として著名なアントシアニンなどが上げられるが、色素としての作用以外にもフラボノイドは菌性寄生生物や病原体に対する予防効果、あるいは酸化ストレスに対する防御効果を持つと言われている。イソフラボノイドは通常2位に結合しているアリール基が3位に結合しているフラボノイドであり*1、これが存在している植物種は限定されている。イソフラボノイドを持つ植物種の多くはマメ科植物である*2、3。
マメ科植物の持つイソフラボノイドの中にはphytoalexin(注1)として作用があることが知られている。これは他のフラボノイドにも共通する植物の生体防御効果の一種だと思われる。しかし、これだけではなく、マメ科に特徴的な根粒菌を根に誘引する物質がイソフラボノイドの一種であることも明らかにされている。 マメ科植物におけるイソフラボノイド類産生の出発基質は(2S)-フラバノンであり、マメ科特有のシトクロムP450分子種であるCYP93C2による触媒反応によってアリール基が転移され、2-ヒドロキシイソフラバノンが生成される(参考文献1、Fig.1参照)。 シトクロムP450(P450)は動物、植物、細菌と生物界に広く分布するモノオキシゲナーゼである。非常に多くの分子種が存在し、進化過程の早い段階で祖先遺伝子が生まれ、そこから分岐していったと考えられている。現在P450はアミノ酸配列の相同性に基づいて分類されており、40%以上相同のものをファミリー、55%以上相同のものをサブファミリーとして区分している。この分類に従うと、例えばCYP1A1と記載されることになる。 動物においては肝臓、副腎、生殖腺、脳など多くの臓器に分布しており、その生理的作用は、xenobiotics代謝、ステロイドホルモン産生、ビタミンD産生、プロスタグランジン産生と非常に多様である。植物ではオーキシンやジベレリン産生などに関与することが知られている。細胞内ではミトコンドリアと小胞体に局在している。 P450は約500のアミノ酸残基からなり、活性中心にプロトヘムを持つヘム含有タンパク質の一種である。ヘムの第5配位座がシステイン残基を介してタンパク部分と結合している。第6配位座には水が配位しており、P450への基質の結合によりここに分子状酸素が結合できるようになる。P450はその反応に2つの電子を要求する。おもな還元力はNADPHであり、小胞体ではこれはP450還元酵素を介して与えられる*4。 CYP93C2を含むCYP93CファミリーはCYP93ファミリーに含まれ、非マメ科植物に広く分布するフラボン合成酵素、CYP93Bファミリーと相同性が高い(参考文献5、Fig. 6)。先祖型のフラボン合成酵素活性を持つ P450 より現存の CYP93B が生じる一方,遺伝子重複といくつかのアミノ酸残基を含む変異の蓄積によりCYP93Cが生じたと考えられている*1、5。 また、CYP93C2はタンパク分子的に不安定であることが示されている。これはおそらく、アリール基が転移といった大きな変化を触媒するために、binding pocketが他のP450分子種よりも広いためだと考えられている。このような分子的不安定性といった進化的に不利な条件を持っているにもかかわらずCYP93C2分子が淘汰されなかったということは、CYP93C2によって産生されるイソフラボノイドの持つ生理活性、すなわち生体防御や共生などに関与する生理活性が、生存において有利であったためであろうと考えられている。CYP93C2は一酵素の遺伝子の変異が共生という現象を生み出す原因の一つとなったという例でもあり、進化という面から見ても非常に興味深い酵素である。 注1:植物が病原菌の感染を受けたときに新たに生合成される低分子量(分子量が100~500ぐらいのものが多い)の抗菌活性物質 1:http://www.brs.nihon-u.ac.jp/~bunshi/youshi3.html 2:http://www.kamoltd.co.jp/kyokai/No28/iwasina.html 3:Sawada Y, Kinoshita K, Akashi T, Aoki T, Ayabe S. Key amino acid residues required for aryl migration catalysed by the cytochrome P450 2-hydroxyisoflavanone synthase. Plant J. 2002;31:555-64. 4:大村恒雄・石村巽・藤井義明 編、「P450の分子生物学」講談社サイエンティフィク(2003) 5:Sawada Y, Ayabe S. Multiple mutagenesis of P450 isoflavonoid synthase reveals a key active-site residue. Biochem Biophys Res Commun. 2005;330:907-13. PR |
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